−鉄道趣味誌に新車の記事などを執筆されてましたよね。
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| 「京阪電車のほとんどの電車には私が関わっています」 |
はい。京阪に入ったのは1982(昭和57)年。大学では機械を専攻していて、材料ばっかり扱ってました。機械屋なら、行くとこは車両しかないです。入社以来21年間車両をやっておりまして、この2年間は「鉄道企画部」に異動してきました。
入社動機?「給料安いけど暇はあるぞ」と大学の先輩にだまされて…(笑)。給料安いのは当たってたけど、設計・設計・設計で…どこが暇やねん。
−「鉄道企画部」と云うのは?
京阪線の収益の管理。投資・収入の管理とか、ややこしいことばかり。購買部門、保安監査をする部門、運転部門とか。 私が担当してるのはグループ会社。叡電と京福がメインですね。他にも数社あるんですけど…。そういうグループ会社の経営に深く関与する。経営も苦しいですが、もう少し元気になるようなことを考えてます。おかげさまで義経ブームがあって叡電は調子いいですね。物語も鞍馬から始まりましたし、日本人は義経が本当に好きなんですね。
−車両ではずっと設計をしてらしたんですか?
入社して1年間は現場廻りまして、その後はずっと設計ですね。足かけ何年やってたんやろ…15年くらいかな? 今走ってる京阪電車のほとんどの電車に私が設計した部品がついてますねぇ。電車だけでは食い足らなくて、坂本ケーブルと男山ケーブルまで。日本広しと云えども、ケーブルのリニューアルを2件担当した電鉄会社社員って私くらいとちゃうかな?(笑)
−さて、800系ですが…。
800系はとにかく条件が難しいクルマでしたね。ほとんど全て限界設計。番号や社紋もステッカーになったのもその影響。常識が全く通用しない電車でした。 大体、カーブはきつい。短い電車が走っていたのに車体長を伸ばすと云う。しかも京都市がミニ地下鉄云うことで、床面高さがそのまんま。さらに、ATSはつけんならんわ、ATCもつけんならんわ…。ただでさえ小さい床下スペースに、日本全国の鉄道車両の全てのものをつけなくてはいけない。(笑)
−そうなんですか?
マニュアル運転とATO、ATC、京阪のATS、京都市交の誘導無線、ワンマン運転やからなんかあった時に直接お客さまと話さなければならない。つまり、それだけの日本の保安装置の全てが付いている。
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| 赤外線監視装置付きの都営大江戸線と、烏丸御池駅のホームドア。 |
京都市交さんあちこちの地下鉄やらを視察に行かはった。すると、例えばもともとワンマン運転のところはホームドアを付けるか、都営大江戸線みたいに赤外線監視装置をつけるかせんならんということやった。…これを両方つけた。(笑)結構高価なホームドア、赤外線監視装置が全駅に付いてます。見本市みたいですよ。
−何とまあ、見本市ですね。こうして安全が支えられているんですね。保安装置があるから、運転そのものの装置のスペースが少なくなるんですね。
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| 連結器の下にジャンパ線が通っています。 |
そうです。床高さを稼げないことが一番しんどかった。あと艤装。ATC、ATOをつけるところは先頭車しかあり得ない。スペースがなくなるからVVVFは4M1Cではなく、8M1Cになる。そうすると艤装線が電車間をいっぱい渡るワケです。それを普通に連結面に垂らしておくと…あの大谷の急曲線で電線がぶち切れるし、片一方はたるんでしもてバラスト擦ってしまう。…仕方がないから連結装置のところにぶら下げたわけです。
−うひゃあ、大谷の急曲線ですか。
あんなとこ、普通の構造で考えとったらとても曲がられへん。(笑)。
−800系と云えば80形の後継車ですが、80形もからくりのような設計でしたね。
80形は冷房改造に苦労しましたね。「クーラーつける」云うたときに、あのままやったら車体が持たへんのとちゃうか、と。「この辺ヤバそうや」云うとこにぎりぎりの補強を入れたんです。
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| 限界設計の連続だった800系。配電盤がなくスッキリした車端部や、運転台の後ろの柱の中にある電線の束。 |
800系も同じように、客室もぎりぎり、屋上もぎりぎり。まず客室は、京阪の標準のものですからね、ぎりぎりまで天井高さをとる。運転台の後ろをとって…。京都市交のクルマに較べて展望がいいはずです。運転士の後ろに配電盤があって、その細い柱の中に電線の束が入っている。あの辺は…限界設計ですね。 市交のクルマでしたら、妻の座席のとこにも配電盤が入っている。ウチはない。これは京阪のこだわり。だけど「出来る限りすっきりとしたクルマにしよう」と。
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| 極薄のクーラーを載せるために屋根を凹ませ、屋根板からはドレンパイプを突き抜けさせて、客室高さを捻出しています。 |
屋上は、客室の高さを確保するためにバカみたいに薄いクーラー使って、屋根を掘って載せたんです。あれしか手段がなかった。だからクーラーのドレンパイプが屋根板を突き抜けて、出てますでしょ。(笑)
目茶目茶薄いクーラーで特別に設計したせいもあって初期には音とか振動とかが出まくりました。ダメ出しに岡が苦労していましたね。
−あれだけ悪条件が重なっている線路なのに、800系の乗り心地は寧ろ特急車8000系よりも上を行く気がします。もっとも8000系がノコギリ加速で、800系がVVVFだからでしょうか。
乗り心地は鋼製車で重量があるからでしょうかね。アルミでは勝てない。ビビリ振動、車体と台車、バネ下重量のバランスが…。
ステンレスはアルミよりも重いですけど、今度はアルミの方が剛性を確保できる。ステンレスはどうしてもスポット溶接ですから。
−IGBTを採用したのは初めてでしたね。
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| IGBT方式のVVVFインバーターをごく初期から採用した東京メトロ日比谷線の03系電車、後期形。 |
早めに「IGBTやろう」云うたことは良かったんですけどね…。営団のIGBT、日立のが出だしたところで、「やっぱり、IGBTいいね」と。ウチのGTOは地下線でやかましいので、ぜひIGBTにしたいと云ったら、制御器メーカーも「やってみましょうよ」って…。
−そりゃそうでしょうに(笑)。初期故障には泣かされたようですが…。
800系が苦労したのは素子の問題で、制御器そのものに問題があったわけではなかったんです。当初は素子が破壊されて、故障がようけ出た。そのたびに岡が関係各所に説明と アタマさげに行って…。(笑)初期故障には市交さんも苦労したらしいですけどね。
他社の車両担当者も会うたびに「調子はどうですか?」って聞かれてねぇ…。(笑)
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| 余剰となった中間付随車を先頭車化改造し、IGBT方式のVVVFインバーター制御となった東急7700系・7715号編成。 |
−7715号ですか。そう云えばあのクルマも全然動いていませんでしたね。同じIGBTでも10000系では別の音がしますね。あちらも苦労されたようですが。
10000系でも新しく導入したシステムやら機器で初期故障が有った。苦労の甲斐あってか、今はちゃんと走ってるけどな。(笑)
−ところで、800系は足回りや保安装置だけでなく、車体デザインもかなり気合が入っています。
顔の形を30種類くらいメーカーの川重さんに考えていただきました。基本的には7200系の弟分やけど、実はお兄ちゃんよりも、はるかに高性能なんです。兄貴は図体でかいけど、弟は賢くて生意気でやんちゃ、ということで…。
−7200系は優美な表情していますものね。そこに800系では精悍さがオンされた。特にあのオデコの表情は、何とも云えず魅力的ですね。
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| 800系の母体となった、兄貴分の京阪線7200系。 |
オデコには私がこだわりました。大津線の600形や700形は馬面に見えるんですよ。今回は床面が下がりますから馬面には見えにくくなったんですけど、小顔に見せたかった。それでガラスの上面をなるべく下げたかった。なおかつ、側面の樋のラインがあって、そこよりもオデコを下げる。そうすると側のラインと合わへんので、三次元の曲面になります。こうやって小顔に見せるのが原点やった。
京阪ではじめてオデコにこだわったのは7000系と8000系やったと思いますよ。他社ではJRの111系とか、近鉄の特急車とかはオデコにこだわってる。京阪は…それまで単一の200Rだった。6000系もそうなんです。
−700形は7000系のイメージで作っていませんか?
アレはもともと600形5次車やったから、そのままで行くはずやった。認可申請も全部降りてたんですよ。ところが現場が「何か新味を出したい」云うてきた。7000系は顔をまっすぐにしたから乗務員室が広うなった。だから、立ててまっすぐにした。結果的に顔が変わった。けどね、オデコはそれなりにきれいに出来るようにはしました。
そうそう、ヘッドライトはコストダウンしました。600形はステンレスでビカビカやったから、そこをちょっとイメージチェンジした。そしたら「まるで阪急みたいや」云われて…。そりゃそうや、阪急と同じ部品使ってるんやから。(笑)
ただ、7000系はガラスの上が高すぎたんです。側面の樋とのつながりが悪かった。
−そこで7200系は優美な顔になったんですね。いかにも京女、という風情です。
まさに京女風にしたい。7200系の顔は私が担当しましたけど、「柔らかく見せる」ことがコンセプトでしたので…。今までの6000系、7000系は曲面と平面を組み合わせてたのを曲面ガラスにした。それでぷっくりと見える。
−京阪電車って、本質的には「大阪の電車」ではなくって、「京都の電車」ですよね。だからちょっと癖があって「誰がどう見てもかっこいい、完璧な顔」というのはあまり無い気がします。速球派ではなく技巧派のような。
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| 京阪のクイーンとして君臨する典型的な「京都の電車」、3000系。 |
そうですね、京阪はまさに「京都の電車」です。その典型が3000系。あの電車はオデコが可愛いんです。ちょっとオデコが広すぎるんです、なのに妙に可愛い。ぴちっとシールドライトがあって、幌枠の銀縁。何とも云えんバランスなんです。オデコの広い可愛い女性という感じに見えるんです。
−それは計算して作ったんでしょうか?
当時そこまで計算してなかったと思うよ。結果的にこうなった…。オデコは何のこだわりもなく200Rで結んでいるだけですけど、何とも雅な、ね。ホンマ、京女風でしょ?
−適当に作った割に絶妙のバランスができているのは「育ちの良さ」がなせる技なんでしょうか。
そうかもしれませんね。そんなんで、5000系、8000系、7000系は男顔。7200系は…若者顔。3000系や、2000系、2200系、2400系、2600系のシリーズは女顔ですね。
−色はどうやって決めたんですか?
色は結構遊びの要素が入ってます。色見本とか他の電車とかバスとかの写真見ながら、これエエなあ、とか…。
まずは大津線というシチュエーションを考えたら、湖畔にすばらしい国際会議場が出来るとかって話がある、それにふさわしい電車にしよう、と…そうするとやっぱりスイスなんです。現にスイスのインターラーケン市とも姉妹都市ですからね。京都でも大津でも国際会議ができるような素晴らしい電車にしよう、と。スイスの電車って赤が多いんです。赤にしたらどうか、赤塗ってみようぜ、とパース絵に塗ってみたらそれがまた結構似合うんですよ、登山電車のイメージに近い京津線に。
−なんと、はじめは赤くなる予定だったんですか。
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| 雨樋の下にピンクのラインが入った京王8000系(1992年)。 |
いろいろやってみた。スイスイメージで赤い線も入れてみた。車両メーカーの担当者が「雨どいの下にラインをいれたらどうやろ?」って。ところが、同じ頃京王8000系でピンク色を軒のところに入れたでしょ。「あ、やられた…」思た。そこまでやったのですが、京都市内で赤い電車は…走れないんですね。そのときに社内で「パリの地下鉄の色もええやん。ゴムタイヤのが」と云う声が出てきた。それはええんやけどパリに行ったヤツなんか周りには誰もいなかった。
−パリまで実物を見に行ったんですか?
さすがに出張は行かせてもらえなかった。水色やろ、クリーム色やろ、と…。車両メーカーの担当者が「大津行って見てきましょ」ってオートバイにまたがって、商店街やら山の上やらから見て写真とってきた。そんで、イメージはびわ湖の水色と空の色。薄い灰色はびわ湖と波と雲の色。京都の伝統色やったんですね。
−「灰白」ですね。
そやそや。
−ほんとうに、800系では相当苦労されたんですね。倉堀さんにとっては会心の代表作なんじゃありませんか?
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| 倉堀が「代表作」と語る、デビュー10周年を迎える3800形ダブルデッカー。 |
いや、私の代表作は3800形です。新車は楽なんですよ。メーカーさんが作ってくれるんだもの。ところが京阪は自前で図面引いて、トンテンカンやってました。
−3800形ですか!
「ダブルデッカー化、できるか?」聞かれて、「要は中を抜いて、2階建てをくっつけて、挟めばエエんです。理論的にはできます。お金はかかるけど」って答えた。冗談やと思てたけど、いつの間にか既成事実になって…。なんてコトするんやこの会社は、と思いつつ、愉しんで作っちゃった。
−全国のダブルデッカーを視察に行ったんですってね。
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| 小田急ロマンスカーの2000系「RSE」。 |
岡に任せたら、朝から晩まで1階と2階両方乗る地獄のような行程を組みよって…。 たとえば、小田急の20000系で、2階席は暑すぎるからフィルムを後で貼っている。それを調べて…。ウチにも使えんか?ってね。小田急のガラスの濃度を参考にして、それにちょっと味付けしてうちのガラスの濃度は決まったんです。
−3800形はクリスマスプレゼントにするべく、トップシークレットで作っていたんですよね。
ところが、4月の記者会見でで社長がリップサービスって云うのかな…ちょっと触れたら新聞に載って…。当時、阪急電車でコンパートメント作るとかいろんな噂が流れてたから、そんな関連で記者が聞いてきたんかもしれんけど…。現場にも発破かかりましたね。
−当然、お蔵入りすると思われていましたけどね。まさか本当にできてくるとは…。
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| JR東日本の113系・211系に連結された元祖2階建てグリーン車とその内装。下は3000系ダブルデッカー。そういえばスポット空調と読書灯が…。 |
でも、車体はあっという間に出来たんですよ。着工は3月くらいからぼちぼちやり出して、連休明けに新鋼体、バスタブやガワの2階建て部分、かまぼこ屋根鋼体、5月末にはできてました。結局構体の部材は山形で作ったんですよ。「コレ、水に浮きますよ」なんて云われて。その後はいろいろ苦労しましたね。たとえば冷房はダクトが難しいんです。スポット空調は悪ノリ。読書灯は岡が日本橋界隈で探してきた。「JRのグリーン車といっしょにすればエエやん」と。
−ムチャクチャな話ですね。(笑)
あんだけコストかけて…800系にしてもですけど、ホンマもっと乗って欲しいですね。
−本当ですね。制作者の立場から「800系ではここを味わって欲しい」というポイントはありますか?
都市間輸送でありながら山岳路線でもある、非常に自然条件の厳しい中を涼しい顔して走ってるスーパートレインです。わずかな時間を変化して愉しめる電車です。いろんな企画切符もやってますので、末永くごひいきにしてください。
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| ジャガード織りのシートから見る「普通の電車に曲がれるわけがない大谷のカーブ」と、JR西日本の681系量産先行車のグリーン車のシート(撮影:内垣大輔さん)。 |
まずはクロスとロング2種類用意して、お連れさんが居る時とお一人の場合とで、そのときの状況に合わせて愉しんでいただきたい。内装は京阪線と一緒ですけど、普通の鉄道会社では無いような凝ったモケットなので…。
−たしかに、織りの深さや手触りは独特ですね。
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| 「少しでも快適な電車にしようと、心を込めて設計しました」 |
「ジャガード織り」と云います。「何やそりゃ」って、全国から問い合わせが来た。
JRの<サンダーバード>の一本目の試作編成のグリーン車と一緒の織りでした が、あちらは量産車から普通のモケットになっちゃった。ウチはまだ使うてますけど…。 |